イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「民と民とのおつきあい」。福岡からソウル経由で英国に戻る際、空港のトランスファー・ラウンジで1泊することに。予想に反して混み合う中、アジア系のジェントルマンが現れて――。(絵=平松麻)

空港で約10時間待つことに

福岡から英国に戻る飛行機がキャンセルになった話は、前にウェブ版「転がる珠玉のように」に書いた。ソウル乗り継ぎで帰れる便を予約していたのだが、数ヵ月前、ソウルからロンドンに向かう便がキャンセルになったのだ。救いは翌日のソウル─ロンドン便に空きがあって振り替えできたことだが、問題はそれにうまく乗り継げる福岡─ソウル便がなく、前日の夜にソウル入りしなくてはいけないことだった。

この便がソウルに到着するのは午後11時頃。ロンドン行きの便は翌朝までなく、待機時間が約10時間になってしまう。ふつうなら、ここで空港近くのホテルを予約するところだろう。だが、わたしと息子は別の選択をした。

「どうせ行ったり来たりしてるだけで時間を食うから、空港内で寝ようか」

これは何のあてもなく辿り着いた結論ではなかった。以前にも仁川(インチョン)空港で乗り継ぎをしたことがあるわれわれは、同空港にはトランスファー・ラウンジなる施設があり、平らな仮眠用ソファに横になれる「ナップ・ゾーン」や、無料で使えるシャワーなど、長時間の乗り継ぎ客にとっては至れり尽くせりの設備があることを知っていたのである。