イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。Webオリジナルでお送りする38.5回は「トラベル・トラブル」。年初に英国から福岡へ行くとき、なんとか乗ることができた福岡便は羽田空港に引き返すことになって――。

まさか空港に門限があるとは

今年は、飛行機に乗るとトラブルが起こる。たとえば今年最初の移動は、年初に母親が亡くなったときだった。寝起きにスマホを見て、「母ちゃんが亡くなりました」というタイトルのメールが妹から来ていたのを確認し、その日の夕刻にヒースロー空港を発つ日本行きの飛行機を予約した。

羽田から福岡行きの国内線も一緒に予約し、後は乗って日本に向かうだけだった。ところが、東京は記録的寒波に見舞われているとかで飛行機がなかなか空港に着陸できず、到着が遅れてしまった。乗り継ぎギリギリの時間である。国内便も同じ航空会社とはいえ、海外から日本に到着する乗客は、日本の空港で預け荷物を受け取らなければならない。なかなか出てこない荷物を待っている間にさらに時間は経過し、ターミナルを走りに走ったが福岡行きの便に乗り遅れた。

が、なんとか次の便に振り替えをしてもらい、福岡行きに乗ることができた。ところが、これまた寒波のせいで、なかなか飛行機が飛び立たない。機内で待たされてようやく離陸した頃には長旅の疲れでウトウト寝込んでしまったが、「当機は羽田空港に引き返します」といういきなりのアナウンスで目が覚めた。

どうやら福岡空港には門限があるらしく、このまま飛んで行ってもそれに間に合わないので着陸できないというのだ。夜遊びを覚えたばかりの中学生でもあるまいし、空港に門限があるというのもびっくりしたが、そのアナウンスがあった時点で広島上空まで行っていたという事実にも驚いた。羽田空港で飛行機が離陸できず小一時間ぐらい待たされたことも含め、はっきり言って、なんという時間の無駄だろう。こっちは14時間も15時間もかけて英国から飛んできた後でこの事態だぞ、と怒りがこみ上げた、というより、正直、わたしは思った。

まあ、こんなものだろう……。