イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。Webオリジナルでお送りする37.5回は「巻き込まれるスキル」。英国の人はよくしゃべり、道端でも目が合うと話しかけてくる。先日も図書館で思わぬ出会いがあり――。

わたしのコミュニケーションスキル

当連載をいつも最初に読んでくれるのは2人の若い編集者だ(自分より年下の人々はわたしにとっては若いし、日本の年齢中央値は48.4歳だそうだから、その点でもまだまだ若手である)。2人とも、毎回とても面白い感想メールを送ってくださる。それをまとめて一冊の本にしたらいいのでは、と思うぐらいだ。世にエッセイ集というのは多くあれど、編集者の感想付きというのはそうない、というか見たことがない。どこか往復書簡のようでもあり、本文と感想文がセットになった読書本のようでもあり、なかなかレアな企画だと思うが、どうだろう。などと、ここで営業する必要もないが、先日、いつものように届いた感想メールを読んでいると、わたしのコミュニケーションスキルに関する言及があった。

コワーキングスペースで一緒になる人に話を聞いたりしているあたり、わたしのコミュニケーションスキルが高い、というのだ。正直、これには違和感をおぼえた。なぜなら、英国の人はめっちゃしゃべるので、コワーキングスペースはおろか、公共交通機関から道端まで、うっかり目が合ってしまうと会話が始まることが多い。わたしなどはシャイな人間なので、自分から話しかけていくことはないが、向こうからガンガン声をかけられるので、つい「ハーイ」とか答えてしまうのだ。

例えば、昨日、わたしは図書館で仕事をしていた。いつもの”ポツンと離れ島”みたいなテーブルが空いていなかったので、長いカウンターに椅子がずらりと並んだコーナーに座っていた。コロナ禍以降、このカウンターには各席の両サイドに衝立が設けられている。”集中できる”と学生に人気だそうで、コロナ禍が終わってもそのままにしてあるのだ。