イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。Webオリジナルでお送りする36.5回は「心配すべきでしょうか」。最近、NHS(国民保健サービス)の健康診断を受けたブレイディさん。問診で飲酒についての質問に正直に答えたところ――

「心配です」宣言

英国に住んで27年目になるが、近年いよいよ凄まじくなってきたなと感じるのが、「心配」が叫ばれる物事の増加だ。いろんなことが心配の材料になり、人々もだんだんそんな気になって「やめるべきなのだろう」と思うようになる。

飲酒などはその顕著な例だが、最近わたしはNHS(国民保健サービス)の健康診断を受けた。健康診断と言っても、最低限のことしかやってくれない英国の国家医療制度のことなので、看護師との問診に身長と体重測定、そして血液検査がついているぐらいのものだ。そこで「週にどのくらい飲んでいるのか」と質問されたので正直にお答えすると、それはNHSが「ここまでならオッケー」と定めている週あたりの飲酒量をはるかに超えているので、「心配です」と宣言された。

「心配です」というのは、「悔い改めよ」のソフトな言い換えである。

この「心配です」は、20年前なら喫煙者が言われた言葉だった。しかし、年々その表現が厳しくなり、英国などでは煙草の箱に「Smoking seriously harms you and others around you(喫煙はあなたと周囲の人々に深刻な害を及ぼします)」と記されるようになり、そのうち「SMOKING KILLS(吸ったら死にます)」という強烈な脅し文句まで印刷されるようになっていた。もうこうなったら、それでも煙草を買う人は命がけの行為をしているも同然ということになり、そのうち酒類にも「DRINKING KILLS(飲んだら死にます)」の警告がつくようになるのかもしれない。