終わらない会話

そんなわけで隣に座っている人の顔は見えないし、そこでコミュニケーションが生まれるわけがないのだが、これがなぜか生まれてしまう。小一時間も作業をしていると、左隣の椅子に腰かけていた青年が衝立の上から顔を出して話しかけてきた。

「すみません、作業中のところ……。USBの充電ポートが機能してないみたいなんですが、そちらで充電させてもらっていいですか?」

「いや、わたしのところには充電ポートがありません。このカウンターで充電できる場所は、たぶん2、3ヵ所しかないと思います」

ああ、そうですか、と、ここで会話が終わってもいいところだ。が、青年は言った。

「そうですか……。困ったなあ、このレポート、3時までに提出しないといけないのに。このあいだ来たときはちゃんと充電できたんですよね。こういうときに限って!」

そういうもんですよね、と、ここで会話を終わらせてもいい。が、わたしは言った。

「急いでるんだったら、わたしのPCから充電します?」

「え、いいんですか?」

「もちろん」

と答えると、青年は嬉しそうにわたしにUSBケーブルの片方を渡した。が、短すぎてわたしのPCまで届かない。「無理ですかねー」「いや、ギリギリまでPCを動かせば」とか言いながら2人でごそごそやっていると、右隣の衝立の上から女性の顔が現れた。

「長いケーブル、持ってますよ」

彼女は自分のリュックの中に手を突っ込み、長いケーブルを出してこちらに渡した。わたしと青年は声をハモらせて言う。

「ありがとうございます」