ふかふかの椅子をゆずってくれたアジア系の親子

コンピュータ・エリアの奥のほうで、いくつも椅子を並べて、家族で寝る体勢に入ろうとしていたアジア系のお父さんとその息子らしい若者が、背もたれとシートの部分がふかふかになっている大きな椅子を1つずつ抱えてこちらに歩いてくる。

いきなり中国語で何かを話しかけられたので、

「すみません、わたしは日本人です。中国語わかりません」

と英語で答えると、先方は

「プリーズ」

と言って、ふかふかの椅子を2つ、わたしたちの陣地に置いた。そして、わたしたちが集めてきた硬くて小さい椅子を1つずつ持ち上げ、

「チェンジ、チェンジ」

と言う。どうやら、わたしたちの硬い椅子のうち2つを、彼らが持っていたふかふかの椅子2つと交換しようと言っているらしい。このあたりで寝ようとしている人々の椅子の配置の仕方を見ていると、みんなふかふかの椅子に体を乗せ、硬い椅子を足置きに使っていた。しかし、わたしと息子はふかふか椅子を1つも持っていない。それで、ふかふか椅子をたくさん持っていた彼らが、ゆずってくれようとしているようだった。

絵=平松麻