トゥダンスの名手

トゥシューズのつま先で踊る、トゥダンスの名手で、クラシック・バレエをあまり見たことがなかった庶民たちは、彼女の華麗なダンスに目を見張った。

飛鳥は、常にステージのことを考えていて、その立ち振る舞い、踊りが「美しくあるべき」と美にこだわった。ストイックな彼女は、集中するために、練習も他の生徒には非公開、一人で黙々と行っていた。

『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)

静子は、ステージのために、すべてのエネルギーを注いでいる大先輩の飛鳥明子を、憧れの眼差しで仰ぎ見ていた。戦後、新劇女優の田村秋子との対談「もう少し楽しくしようという気持ち」で、笠置シヅ子はこう語っている。

私は飛鳥さんを神様みたいに思って、人にもよく話をするのですけど、私たちの先輩であれくらい立派な藝術家は、ほかの方には、悪いけれど、ちょっとないと思います。それはほかの先輩も認めておられた。ちょっと氣違いじみた感じでした。自分の踊りをやっておられるときは、ほかのものが全部消えてしまうのですね。その方によく教わったのですけれど、出と入りが一番むずかしい、出てキャッチするまでの雰囲氣、それができればと、しょっちゅう言われてました。(「サロン」1949年9月号)