胸に秘めた18歳の夏のこと
旅館に残ったシヅ子のところへ親戚の叔父がやってきて、シヅ子は事情を知らないまま実父の法要に列席、親戚に乞われるまま「春のおどり」の「醍醐の花見」を踊らされた。
叔父が何かを隠していることに気づいたシヅ子は、叔母を問いただして、養母には絶対言わないという約束で、実父と実母の話をそこで知ってしまった。
10代のシヅ子が受けた衝撃は、いかばかりか。自伝「歌う自画像 私のブギウギ傳記」(48年・北斗出版社)によれば、その時、実母・谷口鳴尾に会うことにしたが、実際に会ってみると互いに名乗らないまま、思いを胸に秘めたまま別れている。
そのことだけは知られたくないとのうめの想いをシヅ子は痛いほど理解していた。だからこそ、18歳の夏のことは一切口外しなかった。
シヅ子は「私の猫かぶりが利いて、実の親になりすまして母を死なせることが出来たのをせめてもの供養と思っています」と自伝で語っている。
※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)
2023年NHK朝の連続テレビ小説、『ブギウギ』の主人公のモデル。
昭和の大スター、笠置シヅ子評伝の決定版!半生のストーリー。
「笠置シヅ子とその時代」とはなんだったのか。
歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて「ブギの女王」として一世を風靡していく。彼女の半生を、昭和のエンタテインメント史とともにたどる。