翌年植えられた「白菜の種」

翌年、ケールがあった場所に植えられたのは、白菜の種だった。義父曰く「私のため」に、知り合いの中国人から分けてもらったのだという。確かに中華や和食に使える野菜はありがたいが、白菜ばかりがこの敷地いっぱいにみっしり育っても、需要が追いつくとは思えなかった。

それでも、あの超絶苦いケールよりはまだマシである。ネットで拾った白菜の美味しい料理法をいくつか義母に教えると、「ああよかった、今度は使えそうな野菜じゃないの」と安堵を示していた。これならケールのような顛末にはならないだろうと皆で楽観した。

夏休みの終わり近くに種植えを終えたあと、しばらく経って実家へ戻ってみると、白菜を植えたはずの菜園に、アマゾンのジャングルで見かけたことがあるような、大きくて逞しい葉を広げた植物が、鬱蒼と生えていた。なるほど、白菜の栽培は失敗してしまったのだろう。まあ、確かにそう簡単に欲しい野菜が育つとは限らない。

「で、これは何の植物ですか」と、私は謎の植物を指して義父にたずねてみた。

「何って白菜だよ」

「いや、違いますよ、これ。白菜じゃないですよ」と咄嗟に言い返すが、舅(しゅうと)はその植物が白菜だと言って聞かない。毎日念入りに水をやり、太陽の光をたっぷり浴びて発芽し、ここまで大きく順調に育ったのだと、その表情は自信と喜びに満ちている。

「みんな、マリがどんな白菜の料理を作ってくれるのか楽しみにしてるんだ。どうだい見事だろう? で、もう刈り取ってもいい頃かい?」と期待に声を弾ませた。