マリさん「そう簡単に欲しい野菜が育つとは限らない」(写真提供:Photo AC)
レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなど、世界的にも有名な芸術家を数多く生んでいるイタリア。美術館も多く、素敵な街並みに一度は訪れてみたいという方も多いことでしょう。そのようななか、17歳でイタリア・トスカーナ州にあるフィレンツェに留学し、「極貧の画学生時代に食べたピッツァの味が、今でも忘れられない」と語るのは、漫画家・文筆家・画家として活躍するヤマザキマリさん。マリさんいわく「そう簡単に欲しい野菜が育つとは限らない」そうで――。

真夏の菜園

コロナ禍でイタリアに戻ることができなくなり、夏になると実家でさせられていたいくつかの仕事をしないで済んでいるので、ちょっとホッとしている。今でこそ小規模化しているが、かつて義父母が自給自足を目指して作った100坪はある巨大な家庭菜園で、我々家族は皆季節労働を課せられるのだった。

夫は自分の実家だし、マンマから甘やかされていることもあって、熱心に働かなくてもそれを苛(さいな)まれることもないのだが、どうにも義母に逆らえない私と息子は、毎夏この家を訪れる度に、日々の糧となる野菜のために雑草や虫の除去に勤しんだ。

義母の菜園には、トマトやサヤインゲン、ズッキーニにナスといった実用性の高い野菜が植えられていたが、義父の菜園では、あの青汁の原料となるケールとヴェネト州のアルパゴという地域特産の「マメ」と呼ばれている珍しいインゲンが栽培されていた。

ケールは、農家の友人に「体に良いから」と勧められて植えたそうだが、青々と真緑の巨大な葉を発達させたこの植物を、一度実験的に刈って湯がいて食べてみたところ、意表を突かれる苦味と口の中を満たしたえぐみに、皆で苦しみもがいた。まるで服毒したかのような有様だった。