厚生労働省が発表した「簡易生命表(令和4年)」によると男性の平均寿命は81.05年、女性の平均寿命は87.09年だそうです。健康寿命はこれよりも更に短い結果となっています。健康寿命を延ばして、できるだけ長く日常生活を制限なく過ごすためには…。医師の森勇磨先生は「健康寿命を延ばすのに、それほどお金は必要ありません」と言っていて――。
当初はがんを可視化するための研究だった
2009年5月、米国メリーランド州ベセスダ。
ワシントンD.C.のすぐ北西に隣接するその町に、アメリカ最大の医学研究機関、米国国立衛生研究所(NIH:NationalInstitutesofHealth)はある。そのNIHの主任研究員、小林久隆の実験室で奇妙な現象が起きていた。
──がん細胞がぷちぷち壊れていく。
当時、小林が取り組んでいたのは「がんの分子イメージング」である。医学における〈イメージング〉とは人体内部の構造などを解析、診断するために画像化すること。「がんの分子イメージング」とは、つまりがんを可視化する研究だ。がんを「治療する」ための研究ではない。ましてやがん細胞を破壊するなどということが目的ではない。
がん細胞の表面には他の正常細胞にはないタンパク質が多数、分布している。がん細胞を移植されたマウスの体組織内に、このタンパク質とだけ(特異的に)結合する物質を送り込んでやれば、がん細胞にだけその物質がくっつくことになる。
この物質に蛍光物質をつけてやればどうなるか。がん細胞だけを光らせることができる。外科手術の際は、その光っている部分、がん細胞だけを取り除くことが可能になるし、取り残しも防げる。簡単に言えば、当時の小林が取り組んでいた研究のひとつはそうしたものだった。