等高線は人間の皺と同じ
等高線の読み方に慣れてくれば、色々な地表の特徴もわかって楽しい。
例えば同じ棚田であっても昔ながらのタイプであれば等高線が地形に沿って緩いカーブを描くのだが、圃場整備された棚田は等高線が各所で直角に折れているのでそれが明瞭だ。
地表の滑らかさなどの質感もわかる。噴火してから数千年といったきわめて若い火山、たとえば鹿児島県の開聞岳(かいもんだけ)や伊豆の大室山(おおむろやま)などは等高線の揺れがきわめて少なく、いかにも肌がつるつるな印象なのに対して、同じ火山でも何万年か経ったものは山肌が長年の風雨にさらされた結果、角のある等高線の細かい屈曲で「肌の荒れ」が読み取れる。
富士山は現在の形になったのが約1万年前という若い火山ではあるが、縮尺の小さな地図でこそきれいな同心円状の等高線に見えても、2万5千分の1ぐらい詳しい図で寄ってみると、西側の大沢崩れをはじめ大小の皺(しわ)が刻みつけられて着実な「老化」が読み取れる。
まさに年々少しずつ皺を刻む人間の顔と同じだ。
※本稿は、『地図記号のひみつ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『地図記号のひみつ』(著:今尾恵介/中央公論新社)
学校で習って、誰もが親しんでいる地図記号。地図記号からは、明治から令和に至る日本社会の変貌が読み取れるのだ。中学生の頃から地形図に親しんできた地図研究家が、地図記号の奥深い世界を紹介する。