今尾さんいわく一般には出回っていない「線路縦断面図」という図面があるそうで――(写真:本社写真部)
初めて訪れる場所や旅行、災害時に地図は欠かせません。現代ではGoogleマップが主流ですが、「地図」と一口に言っても、さまざまな種類があります。小学生の頃に地図に魅了されて以降、半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた地図研究家の今尾恵介さん。その今尾さんいわく一般には出回っていない「線路縦断面図」という図面があるそうで――。

新幹線の運転士が持つ「お宝図面」

「線路縦断面図」という図面をご存じだろうか。一部の鉄道関係の書籍で紹介される程度で一般には出回っていないので知名度は低いが、要するに線路がどのように勾配を上り下りし、どちら側に緩急どれくらいのカーブを切っているか、トンネルや鉄橋などの施設がどのように配置されているかを一覧できるように記した図である。

私がこの図面の存在を知ったのは、小学館が昭和61(1986)~62年に出した『日本鉄道名所 勾配・曲線の旅』(全8巻)で、同書では各路線の建設の経緯や峠越えの難所など、線路の見どころが興味深く取り上げられ、そのページ下部にこの縦断面図が載っていた。

国鉄は公式に資料提供していないらしいが、鉄道の現場から借りたと聞いている。当時は良い意味で「緩い時代」であったのかもしれない。

現在ではコンプライアンス重視やテロ対策といった見地から鉄道各社は図を公開していないが、この縦断面図と地形図を組み合わせれば線路の状況が手に取るようにわかるので、私などはこの本に載った図で「机上旅行」を存分に味わったものである。

編集委員も宮脇俊三さんや原田勝正さんなど斯界の一流メンバーが揃っており、実に中身の濃い、資料価値の高い本であった。そのため古書市場では今もかなり高値が付いている。