転倒して圧迫骨折

母は「お酒」と「お茶と謡」のために何としてもお正月には家に帰るんだ、と精力的にリハビリに励み、みるみる元気になっていきました。

私は東京から1週間に一度くらい富山の病院を訪ねるようにしていたのですが、どんどん体に強さが戻っていくのがわかり、やっぱり目標がある人間はすごいなあ、と驚いたものです。まさに希望こそは活力の源泉だと再認識しました。

ところが好事魔多(こうじまおお)しとはよく言ったもので、母は12月の初旬、夜中にトイレに行こうとして転倒、腰椎(ようつい)を圧迫骨折してしまいます。歩く練習のつもりで看護師さんも呼ばず、歩行器も使っていませんでした。

かなり痛かったはずですが、母は夜中なので看護師さんを呼ぶのを遠慮したらしく、私が翌朝、病室を見舞ったときに様子がおかしいので、「どうしたの!?」と尋ねてやっと発覚。医師からは「2週間の絶対安静」が告げられました。

お正月を家で迎えたい一心で、一人で歩行練習を頑張りすぎてのことでしたから、何とも残念な事故でした。母は、骨折の痛みのことよりも、「せっかくリハビリを頑張ったのに、お正月までもう1カ月しかない」としょげ返るばかり。

そんな母に、私はこう言って励ましました。

「いまは骨折を治すのを最優先して2週間は安静にしようね。そのあとリハビリすれば、お正月に間に合うから。先生もそう言ってるから大丈夫。心配することないよ」

それを聞いた母は「そんなに寝ていたら、歩けんようになる……」とますます顔を曇らせます。

でもそれは、何としても歩けるようになってお正月には家に戻りたい、という母の強い意志の裏返しだと、私にはわかっていました。