「目が覚めたら、あらゆるものが二重に見えたんです。目の前に立てた1本の指が、なぜか2本に見える」(撮影:大河内 禎)
サラリーマンの日常を軽妙に描いた漫画や、独特な視点で食を掘り下げたエッセイを半世紀以上にわたり発表し続けている東海林さだおさん、85歳。複数の連載を抱え多忙を極めるなか、2023年6月、脳梗塞を患った。入院をきっかけに「食生活の大変革」があったという(構成:山田真理 撮影:大河内 禎)

片目だけで漫画を描き上げた

今年の6月に僕は、脳梗塞を起こして2週間の入院を経験しました。異変に気付いたのは28日の朝のこと。目が覚めたら、あらゆるものが二重に見えたんです。目の前に立てた1本の指が、なぜか2本に見える。2本は4本、4本は8本……こりゃあどうもおかしいぞ、と。

困ったことに、その日は水曜日でした。僕は現在、週刊誌2誌で漫画を、月刊誌1誌でエッセイを連載しているんですが、毎週水曜日は『週刊文春』で55年続いている「タンマ君」の締め切り日なんです。

しばらく目を閉じて考えてから、試しに片目だけ開けてみました。すると世界が昨日までと変わりないように見える。もう一方の目を開いても同じ。それで結局、交互に片目をつぶりながら、半日かけて「タンマ君」の原稿を描き上げました。

もうね、根性というか執念というか(笑)。後で雑誌に載った漫画を見返してみたら、ちゃんと描けていて、自分でも偉いと思いましたよ。

原稿を編集者に渡した後、すぐに病院へ行きました。MRI検査を受けたら、脳の血管にできた血栓が視神経を圧迫しているとわかり、そのまま入院することに。

幸い症状が軽かったようで、血液をサラサラにする薬の点滴を受けることで、2週間後に退院できました。視界の異常も治療を受けて数日ですっかり元に戻り、ほっとしたものです。