(写真提供:新潮社)
2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事ベスト10をお届けします。第1位は直木賞・柴田錬三郎賞を受賞した作家、唯川恵さんの記事でした(初公開日:2023年10月19日)。

*******今や結婚した夫婦の約3組に1組が離婚するという日本。離婚理由はさまざまですが、唯川さんが話を聞いた方の中には、74歳にして夫の不倫を知り、離婚に至った女性もいたとか。大腸がんで余命宣告を受けた後、夫から不倫の告白を受けたという郁代さん(仮名)。相手はなんと就職先を紹介してくれた大学生時代からの友人だったとのこと。「現世の決着は、やっぱり現世で付けておかないと」と言う郁代さんですが――。

晴恵と直接対決

「このことは、夫は最初、死ぬまで秘密にしておくつもりだったようです。でも、思いがけず私のがんが再発して、先に死ぬことがわかって、罪悪感に苛まれたんでしょうね。懺悔となったわけです」

夫を許したのですか?

「許すというか、深々と頭を下げる姿を見ていたら諦めみたいな気持ちになっていました。考えてみれば、この人をひとり遺してゆくことが、結局最大の復讐になるんだろうなって」

確かに残酷な復讐である。

「でも、晴恵はこのままにはしておきません」

郁代さんはきっぱりと言った。

何を考えているのだろう。

「この間、彼女に電話したんですよ。直接話をするのは、仕事を辞めて以来ですから30年ぶりくらい」

相手の反応はどうだったのだろう。

「そりゃあ、驚いてましたね」

どんな話を?

「世間話をする気はなかったので、単刀直入に聞きました。あの時、社長との不倫の噂を流したのはあなたねって。その上、私の夫と不倫してたわねって」

そしたら?

「最初はとぼけてましたよ、誤解だの勘違いだの、はぐらかそうとしました。すべて夫から聞いていると言っても、何の話かわからない、旦那さんボケたんじゃない、なんて言うんです。挙句の果て、これ以上根も葉もないことを言うなら名誉棄損で訴えてもいいのよって言い始めました」

強気に出て来ましたね。

「その時まで、もし晴恵が心から謝罪してくれるなら、すべて水に流そうと思っていたんです。けれど、その気がまったくないことがわかりました」

それで?

「さすがに私も腹に据えかねて、わかった、じゃあ私もあなたを不倫で訴えさせてもらうわねって言ったんです」