“最後の家族旅行”で御神木に生を頼む

転院決定から2日後の4月2日。

4人の子供たちとその家族、僕たち夫婦、そして元妻の昌子さんは1泊2日で熱海を旅しました。

三世代総勢15人、桜は満開。賑やかです。

中川プロデューサーもハンディカメラを片手に同行するなか、久しぶりのファミリー全員集合に大はしゃぎで喜ぶ孫たちは、誰も知りませんでした。これが「おじいちゃん」との、最後の家族旅行となるかもしれないことに。

初日の午後。

熱海屈指の観光名所・來宮(きのみや)神社を参拝しました。境内(けいだい)を元気に走り回る孫たちの背中を追い、杖をついて歩を進めます。

『がん「ステージ4」から生まれ変わって いのちの歳時記』(著:小倉一郎/双葉社)

春風に微(かす)かに交じるのは、潮の匂いか、若葉の匂いか。

みんなとの永いお別れになるかもしれない旅です。

過ぎゆく1分1秒をいとおしむように本殿の奥へとゆっくり歩んでいくと、巨大な楠(くすのき)が姿を現しました。

樹齢2100年以上、幹まわりは23.9メートルにも及ぶ御神木(ごしんぼく)「大楠(おおくす)」です。眼前に聳(そび)える大楠は、命そのものでした。

「さあ、みんなで御神木を回ろう」

龍希(長男)が声をかけます。

この大楠を1周回ると、寿命が1年延びる――そんな伝説があるのだと。

だから、來宮神社に立ち寄ってくれたのか。僕は胸を熱くしながら、愛する家族と輪になって幹の周りを回りました。

神様。1年なんて贅沢なことは言いません。願わくば、1日でも長く、みんなと一緒にこの世にいさせてください。

御神木廻りて生を頼む春