ドラマ『今度生まれたら』が遺作に……?

4月5日に迎えた『今度――』の最終撮影には、命がけで挑みました。

世界的造園家として植物園でアナウンサーにインタビューを受ける場面に続き、いよいよヒロインの松坂慶子さんから頬にキッスされるシーンが控えています。

これが正真正銘のラスト。しかも、古希を過ぎての「ラブシーン」など滅多にあることではない上に、お相手は天下の美女・松坂さんです。

エキストラとして参加した妻のまきに見守られつつ、憧れ続けた女性にチュッとされる瞬間のときめきを目いっぱい表現。

「カット!! お疲れさまでしたーッ」

演出の松岡監督のOKに、嬉しさいっぱいで文句を垂れます。

「ちょっとぉー、チュッチュされるシーンが短いんじゃないのぉ!?」

周囲が爆笑に包まれるなか、その実、僕はフラフラでした。

あの松坂さんからキッスをされて舞い上がっていたのもある、とは思います。ただ、それだけが原因ではないのは、残念ながらもはや明白でした。

ずっと雲の上を歩いているような、足元がフワフワした感じ。めまいも尋常じゃなくひどい。そのまま意識が飛んで死んじゃっても不思議はない気がしました。

僕の肺がんは、体のどこに転移してもおかしくないステージ4です。

このふらつきが何を意味しているのか、考えるのすら恐ろしかった。

当日、現場で松坂さん、まきと3人で撮った記念写真を見ると、ゲッソリ痩せています。クランクアップ後に花束を渡してくれた松岡監督の目が、別れを惜しむかのように潤んでいたのを、僕は見逃しませんでした。

まるで何かの因縁のようなタイトルのドラマ『今度生まれたら』は5月からの放送予定でした。次女の瑞希は、友人や知人に「父の遺作になるかもしれないから、ぜひ見て」と頼んでいたそうです。

しかし、運命はまたしても意外な方向へと動き出していきました。

 

※本稿は、『がん「ステージ4」から生まれ変わって いのちの歳時記』(双葉社)の一部を再編集したものです。


がん「ステージ4」から生まれ変わって いのちの歳時記』(著:小倉一郎/双葉社)

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