病を押してドラマ撮影に臨んでいた頃は、「このふらつきが何を意味しているのか、考えるのすら恐ろしかった」そうで――(撮影:千田容子)
国立がん研究センターの調査によると、2021年にがんで死亡した人は38万1,505人にのぼるそうです。三大疾病の一つである「がん」ですが、俳優の小倉一郎さんもまた、肺がんの「ステージ4」と診断されました。1度は余命宣告されるも、見事復帰を果たした小倉さん。ただ、病を押してドラマ撮影に臨んでいた頃は、「このふらつきが何を意味しているのか、考えるのすら恐ろしかった」そうで――。

愛娘の決断で「転院」へ

3月31日。悠希と瑞希、2人の娘とともに、僕は再告知の場に臨みました。

3人で診察室に入っても、ドクターはいつも通り、チラリとも視線を向けてきません。

「お体の具合はどうですか?」なんて言葉もありません。

もう慣れっこです。

初めて告知した時と寸分違わぬ動きでモニターを眺めたまま、「肺がん、ステージ4……」と話し出す医者の目の前に、姉の悠希が何かをポンと置きました。

ICレコーダーだ!

「な、何ですか」

驚きの色を浮かべたドクターに、悠希が鋭く切り返します。

「私どもは医学知識がないものですから、念のために録音させてください」

さらに、事前にみっちり準備してきた質問リストを基に、現在のがんの状況について詳しい聞き取りを開始しました。

ドクターと悠希の間で、専門的な医療用語が飛び交います。

「わかりました」

一通りの説明を聞き終えた悠希が凜(りん)として放った次の言葉に、今度は僕が仰天する番でした。

「父は、がん専門の病院で診てもらうことにしますので、どこか紹介してくれませんか?」

「……それは、セカンドオピニオンということでしょうか?」

思案しつつ尋ねたドクターに、悠希はキッパリ告げたのです。

「いいえ。病院を変えるということです」

事前に彼女からの相談はなかったし、転院など思いもよらぬことだったけれど、僕は全面的に従うことにしました。三ツ木清隆くん(中高年アイドルグループ「フォネオリゾーン」のメンバー)の「少しはジタバタしなよ」という言葉も後押ししてくれたのかもしれません。

ドクターが挙げた病院は、東京都江東区の「がん研有明(ありあけ)病院」と、横浜市旭区の「神奈川県立がんセンター」の2施設でした。

自宅から通いやすいのは、後者のほうです。

がんセンターへの紹介状と各種検査等の情報共有を約束したドクターは、最後に、

「有名人や芸能人みたいな人は、ここでは治療しないで、もっと名の知れた病院に行きますよね」

僕たちに、そう言いました。

悠希は診察室に入った瞬間に、転院を決めたそうです。

「あのお医者さん、私たちのほうをまったく見なかったでしょ? ずーっとモニターに目を向けていた。許せなかったの、私」

娘2人は迅速に転院手続きを進め、その日のうちに県立がんセンターにアクセス。

初診は4月8日と決まりました。