(写真提供◎ZIGEN)
美術館のキュレーター、カルチャーライターなどを経て42歳から小説を書き始めたという原田マハさん。『楽園のカンヴァス』『リボルバー』など、これまでの経歴を活かしたアートに関する作品が多い中、この短篇集は挑戦的な気持ちで挑んだテーマのものが多いと語ります。「こういうマハさんもいるのね」と皆さんに楽しんでいただければ、と語る6つの短篇とは――。(構成=山田真理)

意外な一面を楽しんでほしい

今回収録した6つの短篇は、最も早いものが2007年、いちばん最近のものが23年と、16年もの間に書かれたものです。

07年といえば、私が日本ラブストーリー大賞を受賞して作家デビューをした次の年。私が小説を書き始めたのは、42歳とやや遅めです。それまでの約20年間は、画集や写真集を扱うショップの店員に始まり、私立美術館の受付、美術館のキュレーター(学芸員)、カルチャーライターなどをしていました。

もともと小説は大好き。自分でストーリーを考えたりもしていましたが、人生はアートに捧げるものだと思っていました。しかし、アートの世界で良くも悪くもいろいろなことを経験するうち、アートと物語を結びつけるクリエイターになる、という別の道もあるのではないかと考え、小説家を目指したのです。

経歴だけでも変わり種だったことに加え、実兄の原田宗典も小説家ということで、興味を持たれやすかったのでしょう。デビューしてすぐの頃は、文芸誌の編集部から、「こんなジャンルでも書けますか」と声がかかることも多かったのです。

それは野球でいえば、入団したてのルーキーが公式戦のバッターボックスに立たせてもらうようなもの。ならば無難にバントを打つより、空振りになってもいいからホームランを狙っていきたいじゃないですか。そんな挑戦的な気持ちで挑んだのが、前半に収めた「深海魚」「楽園の破片」「指」「キアーラ」の4篇です。

それぞれ違う雑誌からの依頼でしたし、与えられたテーマも「禁断の愛」や「女性のための女性によるエロスの世界」などさまざま。

近年の私は、資料の読み込みと現地への取材で、アーティストの人生や作品が生まれるまでの背景に迫る「アート小説」を書いています。そうした作品を支持してくださっている読者からしたら、「マハさんがこんな小説を書いていたなんて!」とびっくりしてしまうかも。(笑)

でもノワール(暗黒・犯罪小説)であれ官能小説であれ、人の心を密かにくすぐるジャンルというのは、書くほうもどこかゾクゾクするような面白さがあるのです。創作でしかできない《罪》を楽しみながら書いた記憶があります。