《戯曲を書く脚本家》を主人公に

ラストに収めた「奇譚」は、私が21年に書いた戯曲『リボルバー』のスピンオフ的な作品になります。舞台の脚本を書くのは初めてで、安田章大さんがゴッホを演じた舞台に企画段階から関われたことは非常に得難い体験でした。

そこで、「ゴッホをテーマにした戯曲を書く脚本家」を主人公にした短篇を考えてみたのです。ゴッホの後ろ姿とされる一枚の不思議な写真をめぐる、ちょっとゾクッとするようなホラー仕立ての一篇になりました。

このように、このところの私の軸となっている、女性を力づけたり、アートへの愛情を込めたりした書きぶりとはかなりテイストが違う作品が多いかもしれません。

でも若い頃の野心や、その時々での挑戦の軌跡が見えるという意味で、非常に面白い一冊になったと思っています。

「こういうマハさんもいるのね」と皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいですね。