「ナチス・ドイツを連想させる」
数年前に私は国土地理院の「外国人にわかりやすい地図表現検討会」のメンバーとして議論に関わった。
東京オリンピック2020大会への外国人観客を意識した議論であったが、国土地理院はその検討材料として907人に及ぶ外国人(大使館員、JICA研修生、留学生、日本語学校生徒、浅草寺周辺での観光客など)にアンケートを実施している。
その際に日本の地形図の記号である卍に対して「ナチス・ドイツを連想させる」という意見が多数あったことを考慮し、結果的に三重塔の側面形の採用を検討会として提言したこともあった。
地形図の記号で寺院に卍を採用したのは明治13年(1880)から整備が始まった「迅速測図」以来で、以後モデルチェンジもなく現在に至っている。
ただしその記号の呼称は最初が「仏閣」で、次に「仏宇」とする時代が長かった。その後は「昭和30年図式」の「仏寺」を経て「昭和35年加除図式」から現在の「寺院」になっている。
記載の対象は現行の「平成25年図式」によれば「目標となるものを表示する。ただし、著名なもの又は地域の状況を表現するために必要なものについては、注記[文字表記=引用者注]する」としてあり、仏教寺院の定義に関する規定はない。
もっとも運用を見れば既存の仏教に限られており、仏教系であってもいわゆる新興宗教は含まれていない。特に規模が大きく目標物になるものについてのみ卍記号は使わず、「法隆寺」「天理教本部」「金光(こんこう)教本部」「PL教団本部」などと固有名が記載されている。