歌とタップを猛練習

今回の『浅草キッド』は脚本と演出を、かねてから「この方のお芝居に出たい」と憧れていた福原充則さんが手掛けてくださっているのもたまりません。何年か前に、葛西臨海公園で上演されていた福原さんが手がける野外劇を観たときに、「なんて面白いんだ!」と雷に打たれたような衝撃を受けたんです。

今回の稽古場でも、新しいアイディアが福原さんから次々と生まれてくるので、毎日、ワクワクしています。僕たち役者に対しても、「脚本を読んで感じたことを、そのまま自由に表現してください」と、ひとりひとりの役者が起こすアクションを心から楽しんでくださっています。福原さんの稽古場は風通しがよくて、すごく居心地がいいんですよ。

「ネガティブな部分があるからこそ人の気持ちがわかる。その言葉に勇気をもらって」

その福原さんの意向で、今回は音楽劇という形になりました。当然のことながら、僕も歌いますし、タップを踏むシーンもあります。歌に関しては、どこまで完成度の高いものを披露できるのか、正直な話、不安もあります。

でも、若き日の武さんも、武さんのその後の人生を決定づけた師匠の深見千三郎さんもシャイな人だから、歌でそれぞれの本音を表現するために音楽劇にしたのだと。そのお話を聞いたとき、ちょっぴり肩の荷が下りたと言いますか。歌だからといって必要以上に気負わずに、お芝居と同じ気持ちで向き合っていきたいです。

もちろん、だからと言って、お客様に中途半端な歌をお聴かせするわけにはいきません。今回のオリジナル曲をつくってくださった益田トッシュさんの奥様の益田トッポさんが、僕の肉体を根本から改造するような歌唱指導をしてくださっているので、教えていただいたことを舞台の上で最大限に発揮していくつもりです。

タップダンスも、舞台ですからやり直しは効きません。自分でステップを踏んできちんと音を出さなきゃいけないというプレッシャーもありますが、タップ界の巨匠であるRONxII(ロンロン)さんに特訓していただきながら、精一杯頑張りたいです。福原さんの脚本はもちろんのこと、トッシュさんの曲も、RONxIIさん振り付けのタップダンスもとにかく素晴らしいんですよ。「このお芝居、面白いに決まっているじゃん!」と確信が持てるので、それが僕自身のプレッシャーをかき消してくれているのだと思います。