70代になって劇団民藝に所属
いよいよ篠田さんが劇団民藝の舞台に客演するのは、前に老女優ベティ・デイヴィス、リリアン・ギッシュが映画で共演し話題になった『八月の鯨』(2013年)。篠田さんはミスター・マラノフ役だった。二人の老女役は奈良岡朋子と日色ともゑ。
――はい、『八月の鯨』出演が、やはり第三の転機ですね。日色さんとは何度か民藝以外の舞台でご一緒したことがあって、それを観にいらした劇団の演出家・丹野郁弓(いくみ)さんが声を掛けてくだすって『八月の鯨』に。12月の三越劇場でした。
奈良岡さんとはその時が初めてで、自分が舞台の前のほうで客席に向かってしゃべってるのを、後ろで奈良岡さんが聞いておられるんだ、名優とご一緒なんだ、って、芝居を離れて妙に感動しながら演じていました。
奈良岡さんはお歳のこともあって途中で咳が出たりしても、芝居の流れの中で役の人物がそうしてるみたいで、すごいなぁと感心することばっかりでした。
その奈良岡さんは丹野さんによると、「篠田さんは亡命ロシア人の役だったけど、品がありながら、どことなく胡散臭さもただよわせる居ずまいで、ただの二枚目じゃなかった。その後、半年間、公演で日本中を一緒に回ったので、各地で食事をご一緒したりしてその人柄のよさがよくわかった」と語っていたそうだ。
――そうでしたか。ありがたいですね。自分はわりあい早口なもんですから、台詞も早くなっちゃうんですね。そうしたら奈良岡さんが、「この役の男は元貴族かもしれない役なんだから、もっとおっとりと。皇室の方の話し方を参考にしてみたら?」って注意してくださいました。
考えてみたら、初めて自分が「新劇」というものを観たのは、劇団民藝の『セールスマンの死』(66年)なんです。朝日生命ホールでした。
印象が強かったのか、役名も俳優もよく覚えてるんですよ。ウィリー・ローマンが滝沢修先生、その奥さんリンダが小夜福子さん、息子たちは垂水悟郎さんと稲垣隆史さんとか、って。やっぱりご縁があったんですね。