僕が最初に舞台に出たのは、やはり石井ふく子さん演出で、『恋ちりめん』(76年)。三田佳子さんの相手役で、三越劇場でした。周りが全部新派の方で、安井昌二さんとか、市川翠扇さんとか。あと春本泰男さんには大変お世話になりました。

とにかく初舞台で、舞台ってものを知らないし、ドタドタ歩いたり台詞を噛んだり。お客様が笑い出しちゃって。でもしまいには拍手をいただきましたけどね。

杉村先生とご一緒の舞台に出たのは芸術座の『木瓜(ぼけ)の花』(86年)です。杉村先生の昔の恋人に似てるという男の役で、嘘かほんとか杉村先生のご指名だと伺いました。

ある時、杉村先生から「あなたね、舞台はずっと後ろのほうにもお客様がいるわけだから、もっと声を出しなさいよ」と言われて。

その通りにしてたら、観に来た友達から「目の前の相手としゃべるのに、あんな大声は不自然だよ」と言われ、少し声を絞ったら、「また小さな声になっちゃって、どうしたの?」って。かくかくしかじかでと言ったら、「いいのよ、私の言うことさえ聞いてれば」って(笑)。

最初お会いした時はやっぱりかなり年配の方だなと思いましたけど、ご一緒しているうちにだんだん好きになって、「先生、今日の駄目出しは?」「そうそうあるもんじゃないわよ、あなた」なんてね。ずいぶん甘えさせていただきました。