大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第一話は「約束の月」。平安中期、京に生を受けた少女まひろ(落井実結子さん)、のちの紫式部。父・藤原為時(岸谷五朗さん)の政治的な立場は低く、母・ちやは(国仲涼子さん)とともに慎ましい暮らしをおくるが――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「平安時代の貴族」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
諸外国との関係に頭を悩ませてきた日本
1月7日より平安時代中期の歌人・紫式部の生涯を描く『光る君へ』が放送開始となりました。このドラマは当然ですが、藤原氏を始めとした、いわゆる“貴族”を中心に描かれていくと思われます。
一方、聖徳太子が政治を行っていた飛鳥時代の頃から、日本はすっと、東アジアの国々とどういう関係性を築くか、という点で頭を悩ませていました。
その難問に一定の答えを呈示した時期は天武天皇・持統天皇の頃、西暦700年前後で、ここでこの国は国号を日本とすること(それまでは中国王朝から倭と呼称されていた)、国の統治者を「天皇」と呼ぶこと(それまでは大王)、独自の元号を「持続的に」もつことを定めました(大化以降、途切れながら定められてはいた)。
「天皇」が中華王朝の「皇帝」に並ぶ尊貴な呼称であることが物語るように、これは日本が、当時の超大国である中国を頂点とする体制の埒外で自立することを示唆したものだとぼくは理解しています。
もちろん、こうした国家的な主張は、実力を蓄えなければ意味をもちません。そのために国力を養うこと、天皇の施政の安定を図ることが急務とされ、その要請に応えるため、もろもろの施策が矢継ぎ早に打ち出されました。
地方行政を充実するために「国」(たとえば大和国や武蔵国など)が置かれ、全国各地の神話は天照大神を最高神として整合的に編成され、『古事記』『日本書紀』など歴史の編纂が遂行され、法の体系である律令が整備されたのです。