ぶどうは手に入れなくていい

佐藤 そもそも、ぶどうにはすっぱい以前の問題があります。狐は基本的に肉食ですから、ぶどうを食べたとしても、大して腹の足しにはならないのです。

池上 なるほど(笑)。苦労の末に手にして腹に収めるという行為は、費用対効果の点で大いに問題がある。

佐藤「狐は基本的に肉食ですから、ぶどうを食べたとしても、大して腹の足しにはならない」(写真提供:Photo AC)

佐藤 そういうことです。さらに言えば、人には適性というものがあるのを忘れてはいけません。往々にして適性の問題を能力の問題と勘違いするところから、問題が発生し深刻化するわけです。

池上 適性ということになると、努力でどうこうなる世界ではなくなります。例えば東大に合格するためには、相応の学力もさることながら、ある種の特殊技能というか、特別なテクニックを磨く必要があります。そういうことが性に合わない人は、いくら頑張ってみたところで赤門をくぐることは困難でしょう。

佐藤 狐には、高い木になった果実をジャンプして取るような適性はなかった。そもそもぶどうという食べ物自体が、性に合わないものだったということになります。にもかかわらず、「現代の狐」たちもまた、みんながぶどうを取ろうとして、同じ舞台で競うのです。競わされる、と言ったほうがいいと思うのですが。

池上 問題はそこですよね。その競争は、あなたの適性に合致しないから無駄骨に近いですよ、と言ってもなかなかわからない。