夫唱婦随

今度は、家から電線を引いて川に電気を流し、魚を捕ろうということになりました。

「よーし、いいぞ」と百福が合図すると、家で仁子がスイッチを入れます。ボンと大きな音がしました。ヒューズが飛んでしまったのです。魚は一匹も捕れませんでした。

まだあきらめません。

続いて、毒性のあるトリカブトを採ってきて叩いてつぶし、川に流しました。魚が何匹かぷかぷかと浮いてきました。トリカブトはキンポウゲ科の植物で、低毒性の成分を含むので、食べるのは危険でした。しかし仁子は、毒が回らないように、内臓をきれいに洗いとって焼き魚にしました。

何をするにも、子どものような好奇心を発揮するのが百福のやり方です。そして、いつも、一匹、二匹ではなく、川の魚を全部、一網打尽に捕りたいと考える大胆なくせがありました。仁子も本気で、百福の遊びに付き合いました。二人はどこまでも、夫唱婦随なのです。

結局、最後には、大きな竹で編んだザルを使って、追い込んだ魚をすくい取る方法を採用しました。たくさん小魚が捕れました。須磨と仁子が二人で三枚におろし、開きにしたり、味噌に漬けたりしましたが、冷蔵庫はないのでハエがわいて閉口したそうです。

また、百福と仁子は二人で栗山に登り、木を揺らして大量の栗の実を拾ってくることもありました。どうやら、疎開先では食べ物にはあまり苦労しなかったようです。