「ビセイクル」

ある晩、布団の中で「はたして、どんなものが材料になるだろうか」と考えていました。カエルの声が聞こえました。庭の池に食用ガエルが棲みついていたのです。

「これは栄養剤の原料になるかもしれない」

早速、若い者を起こして捕獲作業に入りました。捕まえてみると、体長二十センチはある立派な食用ガエルでした。きれいに洗って、内臓を取りました。圧力釜に入れて電熱器にかけました。

となりの部屋には仁子と生まれたばかりの宏基が寝ていました。二時間ほどたつと、ドーンという大音響とともに、圧力釜が爆発し、中身が部屋中に飛び散りました。家の中で一番きれいにしつらえた日本間の天井、鴨居、ふすまなどが、台無しになってしまったのです。

「まあ、何もこんなところでなさらなくても」と、仁子にさんざん絞られました。

残念ながら、カエルは栄養剤にはなりませんでした。よほど悔しかったのか、後日、もう一度料理して食べてみると大変おいしく、「産後で体力の落ちていた家内に食べさせて、格好の栄養源になった」と自慢しました。

研究所では、牛や豚の骨からエキスを抽出し、タンパク食品に加工することに成功しました。ペースト状にしてパンに塗って食べる商品で「ビセイクル」という名前です。厚生省(現在の厚生労働省)に品質が評価され、一部、病院食として採用されました。決して大きな売り上げになったわけではありませんが、百福の食品加工の第一歩はこうして報いられたのです。