「師匠に見せてダメだと言われたら、また持って帰って切る。自分としてはよくできたと思っても、やっぱり違うのね。だから面白い。」

最初のお題は「馬」

もともと寄席が大好きで、新宿の近くに住んでいたこともあり、高校生の時分から末廣亭に通っていました。朝起きてご飯を食べて、「さあ今日も寄席に行きましょう」というのが習慣になっていたんです。

ある日、末廣亭の高座で、当時「小正楽」と名乗っていた後の二代目林家正楽の紙切りの芸を見て、「俺もこれをやるんだ」と突然閃いた。作品が完成してお客さんに披露すると、客席から「おおーっ!」と声があがるでしょ? それがとてもカッコよく見えたんです。

それで師匠に弟子入りしたんですが、弟子入りったって、師匠が手取り足取り教えてくれるわけじゃありません。師匠が切ったお手本を渡されて、「同じように切れるまで稽古して持ってこい」って、それだけです。

ただ僕も、ずっと客席で見てましたからね。どう切るかはわかっているんです。で、家に帰って下書きなしでひたすら切る。その繰り返しです。

最初のお題は「馬」でした。特徴と動きがあって、切りやすいからでしょうね。師匠に見せてダメだと言われたら、また持って帰って切る。自分としてはよくできたと思っても、やっぱり違うのね。だから面白い。動物を終えたら、やっと人間を切れます。

アルバイトをしながら4年ほど稽古を続け、1970年に「林家一楽」という芸名をもらいました。88年に「小正楽」を、2000年に三代目「正楽」を襲名し、今に至ります。

<後編につづく

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