「好きな女性ができた。離婚してくれ」
結婚以来、専業主婦だった沙織さん(52歳・仮名)が、夫に「好きな女性ができた。妊娠中だ。その面倒をみなければならないから、離婚してくれ」と驚愕の告白をされたのは、約8年前。長男が高校2年生、次男が中学3年生のときだった。
「『じゃ、うちの子どもたちはどうするの!?』という言葉がぐるぐると頭の中を巡りました。けれど、ショックで何も言えない。すると長男が割り込んできて、『2年くらい前に、この男が女と腕を組んで歩いているのを見た。お母さん、コイツのことは見捨てろ! 高校卒業後は、俺が働いて家族の面倒をみてやる!』って。長男は父親の浮気を知りつつ、私を気遣い黙っていたんですね。そのことがつらくて……。口から出た言葉が、『私の子どもとも縁を切って。養育費もいりません』でした」
元夫から一円ももらうことなく離婚した沙織さんは以来、工場と弁当屋のパートを掛け持ちし、2人の子どもをしっかり自立させた。
ホッとしたのも束の間、約1年前、さらなる局面を迎える。母親と死別してひとり暮らしをしていた父親が脳梗塞を発症し、要介護の身に。
自営業で何度も事業に失敗した父親は、貯蓄どころか借金を抱えて、狭いアパートで暮らしていた。沙織さんは、父親のもとで暮らし始める。
ヘルパーを依頼するにもお金がかかる。自力で介護するには「介護離職」するしかなく、父親の月約6万円の年金だけが2人の生活費となった。
「息子たちに迷惑をかけないために、父との心中を考えるくらい追い詰められましたね」
そんな精神状況でも、なんとか自宅で収入を得る方法を考えた。閃いたのが、オーダーメイドの洋服づくり。短大の家政科を出ていた沙織さんは、今こそ身につけた技術を活かしてみよう! と思い立った。
「小学生の子どものいるママ友に、『自分でデザインした子ども服なんてどう? 簡単なデザインと好みの生地を持ってきたら、1着5000円でつくるよ』と声をかけてみると、『それ、面白い!』と目を輝かせ、5着もオーダーしてくれたんです。『介護中のため、締め切りはなし』の条件も快諾してくれました」