20代前半、ランウェイを歩く加藤さん(写真提供◎加藤さん)

「加藤くん、モデルやってみない?」

大学3年になったある日、大学の掲示板の前を通りかかると、僕宛の貼り紙が目に留まりました。見ると「教育学部で陸上部に所属している加藤昌也(本名)さん、連絡をください。倉谷宣緒(よしお)」と書いてある。倉谷さんというのは件の映画サークルの代表者です。電話を持っていなかった僕と連絡を取る手段がなかったため、大学の掲示板を利用したようでした。僕も普段は掲示板なんか見ないで通り過ぎるのに、この日はたまたま気づいたのです。

「何の用だろう?」と不思議に思いつつ、そこに書いてあった番号に電話をしてみると「俺、モデル事務所のマネージャーに転職したんだよ。加藤くん、モデルやってみない?」と言われて。たぶん新人マネージャーとしてのノルマがあって、誰かいないかなと考えた時に映画サークルで会った僕を思い出したのでしょう。

それを機に僕はモデル事務所に籍を置くことになるのですが、いま振り返ってもあれは実に不思議な縁でした。あの日、本屋に『ぴあ』が売っていたら、そして掲示板を見なかったら、僕はこの世界には入っていなかったので。人生って、人の運命って、本当に面白いですね。

ちなみに倉谷さんは、後に俳優の大沢たかおさんをスカウトした方で、現在は制作会社の代表。僕とは今も親交があります。

帽子を片手に海辺で佇む、1980年代の加藤さん(写真提供◎加藤さん)