今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『時評書評ー忖度なしのブックガイド』(豊崎 由美 著/教育評論社)。評者は書評家の中江有里さんです。

いまの時代を書評から読み解いてみる

この国では毎日のように「炎上」騒ぎが起きているが、その火元は「言葉」だ。

共感する言葉、納得する言葉、大勢が支持する言葉、一見よさそうに聞こえる言葉のせいで必要のない分断が生まれたりもする。

闘う書評家と言われる豊崎(正しくはたつ崎)由美さんは火傷を恐れぬ態度で、火元の正体を探っていく。

権力者の不用意な言葉はよく燃える。議論する間もなく早々と燃え尽きて、そして忘れ去られる。Web連載時の話題をからめたブックレビューを集めた本書を読んで「こんな発言、あった!」と思い出すことが多かった。

これは危険な兆候。差別発言もセクハラ発言も忘れてしまえば繰り返される。女性やマイノリティを侮辱する発言は、次から次へと出てくるし、発信者の口は封じられない。ならばどうすればいいのか。忘れずにいるためにも本書を読むしかない!

収められた書評本には外国文学(ガイブン)もかなりあって、たとえばAIをテーマにした作品でイアン・マキューアン『恋するアダム』とカズオ・イシグロ『クララとお日さま』の書評では、それぞれのAIを比較しながらあらすじ、物語の背景、読みどころを紹介。そしてこの二冊がほぼ同時期に日本語翻訳刊行された恩恵に触れたところを読んだとき、私は日本のガイブンの充実ぶりをあらためて有難く思った。

また都知事時代の石原慎太郎氏の数々の発言を糾弾する一方、小説家石原慎太郎の良作の評価は揺るがない。これが著者なりの追悼。野球好きとしてはWBC代表チームに見立てて紹介するベスト11冊(単行本のボーナストラック)は全部読みたくなった。

書評とは何か、と訊かれたら、私は包み紙と答えたい。包む本体が主ではあるけど、本を開く前から期待を高めてくれるのが書評。「褒める」と「メッタ斬り」の両輪でつき進む豊崎さん、その一直線の轍を追いかけます!