好きなことを続ける幸せ
子どものころから好きだった虫のことを、80代でも続けていられるのは幸せだと思いますね。本当は大学でも虫を勉強したかったのですが、当時、急病で寝込んでいた母から「医学部へ行くように」と懇願されてしまってね。
夫を早くに亡くし、開業医として家族を支えてきた母からすれば、医者なら時代がどうあれ食っていけるという思いがあったんでしょう。それで僕が折れた。
しかし、今になって思うと、虫の専門家にならなくてよかった。だって仕事のほかに、楽しみがなくなっちゃうからね(笑)。
それに学問の世界にも、その時々の社会情勢で求められる分野や流行がある。研究室を運営する予算を獲得するには、ある程度時流も意識せざるをえず、やりたい研究ができなかった可能性もあるわけです。
とはいえ、解剖医としての仕事を嫌々やっていたわけではありません。解剖学の研究室ではご遺体を病院や個人宅へ引き取りに行くことがあるのですが、「そんなのは自分の仕事じゃない」といって嫌う研究者もいます。