スープの味をチキンに決めた理由
スープの味をチキンに決めたのにはちょっとしたエピソードがあります。当時、裏庭でニワトリを飼っていて、時々、料理しては食卓に上げていました。ある時、ぐったりとしていた、締めたはずのニワトリが突然、台所で暴れ出したのです。
血が飛び散って、宏基(次男)の服にかかりました。宏基はショックを受け、それ以来、トリ肉はもちろん、大好きだったチキンライスまで口にしなくなりました。ところがある日、須磨(仁子の母)がトリガラでとったスープでラーメンを作ると、宏基はトリと知らずに、おいしそうに食べたというのです。
そういうわけで、百福は即席麺のスープをチキン味に決めました。考えてみれば、世界中で食べられているコンソメスープのブイヨンは、古くからトリガラと野菜を煮詰めて作ります。「チキンは世界中の料理の基本となる味だ」と気が付いたのです。
のちに、海外生産に仕事を広げていった際、ヒンズー教徒は牛を食べない、イスラム教徒は豚を食べないという宗教的禁忌(きんき)の壁にぶつかりました。しかしチキンを食べない国は世界中どこにもありません。百福の選択は正しかったのです。
※本稿は、『チキンラーメンの女房 実録 安藤仁子』(安藤百福発明記念館編、中央公論新社刊)の一部を再編集したものです。
『チキンラーメンの女房 実録 安藤仁子』(著:安藤百福発明記念館/中央公論新社)
NHK連続テレビ小説『まんぷく』のヒロイン・福子のモデルとなった、日清食品創業者・安藤百福の妻であり、現日清食品ホールディングスCEO・安藤宏基の母、安藤仁子とは、どういう人物だったのか?
幾度もどん底を経験しながら、夫とともに「敗者復活」し、明るく前向きに生きた彼女のその人生に、さまざまな悩みに向き合う人たちへの答えやヒントがある――寒空のなかの1杯のラーメンのように、元気が沸き、温かい気持ちになる1冊。