ようやく生まれた二人だけの調和

別の随筆では、二人の場合は夫でない夫と妻ではない妻の共同生活であるとし、

〈我々の場合、夫らしい夫を妻が求めたり、妻らしい妻を夫が求めたりしたとき、この均衡が破れて、本当の危機が来るのかもしれない。〉(『風花の街から』毎日新聞社)と記している。

歳月を経て、ようやく二人だけの調和が生まれたようだ。

 

※本稿は、『吉村昭と津村節子――波瀾万丈おしどり夫婦』(新潮社)の一部を再編集したものです


吉村昭と津村節子――波瀾万丈おしどり夫婦』(著:谷口桂子/新潮社)

数々の名作を世に送り出した小説家夫婦――その人生は、愛とドラマに満ちていた。
「結婚したら小説が書けなくなる」。プロポーズをいなす津村を吉村は何度もかき口説いた。「書けなくなるかどうか、試しにしてみてはどうか」。そして始まった二人の人生は、予想外の行路を辿っていく。生活のための行商旅。茶碗が飛ぶ食卓。それでも妥協せず日々を積み重ねる二人に、やがて脚光が……。互いを信じ抜いた夫婦の物語。