父親による性虐待、母親による過剰なしつけという名の虐待を受けながら育った碧月はるさん。家出をし中卒で働くも、後遺症による精神の不安定さから、なかなか自分の人生を生きることができない――。これは特殊な事例ではなく、安全なはずの「家」が実は危険な場所であり、外からはその被害が見えにくいという現状が日本にはある。 何度も生きるのをやめようと思いながら、彼女はどうやってサバイブしてきたのか?生きていく上で必要な道徳や理性、優しさや強さを教えてくれたのは「本」という存在だったという。このエッセイは、「本」に救われながら生きてきた彼女の回復の過程でもあり、作家の方々への感謝状でもある。
「あなたのために」という呪縛
「あんたたちのために、お母さんは離婚したいのを我慢しているのよ」
母にそう言われるたび、「あんたたちのために」ではなく「あんたたちのせいで」と責められているような気がした。私たちのためを思うなら、むしろさっさと離婚してほしい。そう口に出したなら、母はどんな顔をしただろう。
私が子どもの頃は、現代以上に片親が偏見を持たれる時代で、離婚率も今ほど高くなかった。「離婚が増えた」と嘆く声も聞かれるが、私はようやく「離婚できるようになった」のだと思っている。言わずもがな、夫婦仲良く暮らせることが何よりだ。しかし、さまざまな要因や状況が重なった結果、共に生活を営むことが困難になる場合もある。
元夫からのDV・モラハラを伝えると、「どうしてそんな人と結婚したの?」と疑問を投げかけられる。率直に答えるなら、「結婚前はそういう人ではなかったから」の一言に尽きる。いくら両親からの虐待被害で認知が歪んでいたとしても、交際当初から暴言を撒き散らすような相手と結婚はしない。
元夫の場合は、「結婚したから」変わったというよりは、「子どもができてから」変わった側面が大きい。また、彼の仕事も彼の性格に多大な影響を及ぼしたと考えられる。元夫の仕事は激務なだけではなく、人間の負の側面に触れる機会が多かった。年数を重ねるごとに疑り深くなっていき、話し方も辛辣になる元夫の姿を見て、何度か転職を勧めたこともある。だが、彼は安定した給料を理由に頑として仕事を辞めようとはしなかった。
「お前たちのために、こんな職場で働いているんだろ」
彼が言う「お前たちのために」が、母の台詞と重なった。