自宅の車庫入れで事故を起こした
ーー森さんの最大の懸案は父の運転問題。免許証は老いてからの父のプライドの拠り所だった。2021年、コロナのワクチン接種に行った時、受付で身分証明書の提示を求められると、父は嬉々として運転免許証を取り出し得意げに話した。
「93歳になりますけど、まだ車を運転しています。無事故無違反で、ゴールド免許なんです」
困惑する受付の人の表情に森さんは「まだ返納させないのか」と責められているように感じた。父は高齢者が自動車事故を起こすニュースを見ても、人ごととして受け止めていた。が、ついに恐れていた事故を起こした。
父が運転免許証を取得したのは1958(昭和33)年。2、3年のうちにマイカーを購入できたのがステータス、「男の勲章」となっていたのではないでしょうか。
スポーツクラブは自動車でないと行けないところにありました。健康維持のためと容認してはいましたが、事故を起こす前に運転を止めさせなければならないと常に考えていました。免許証の返納を何度頼んでも父は同意してくれませんでした。
2021年末、自宅の車庫入れで車を大破させる事故を起こしました。アクセルとブレーキを踏み間違えて車庫と車を破損し、ギアを入れ替え向かいの家に突っ込んだのです。
父は胸を打撲し救急車で病院に運ばれました。「車は廃車。これで運転は終わり」と、私は父に通告しました。ところが、父は事故を起こしたこと、救急車で運ばれたことを「覚えていない」と言うのです。