甘糟は完全にビビっている様子だ。無理もない、日村だって谷津みたいな輩(やから)の相手は嫌だ。
「だからよ」
谷津が言った。「ちゃんと躾しとけって言ってるだろう。綾瀬くんだりから、このあたりにやってきて、何か悪だくみをしている様子だ。うちとしては黙っていられねえ」
「話はうちで聞きますから」
「そうはいかねえな。ここで連れていかれちゃ、とんびに油揚だ」
「不当に連れていって拘束すると、逮捕・監禁の罪になりますよ」
「ばかかおめえは。警察が反社逮捕して罪になるのかよ」
「なります。あ、いや……。厳密には、という話ですけど」
「面倒くせえやつだな」
「ちゃんとした罪状やその疑いがあれば別ですけど……」
「暴対法と排除条例があるだろう」
「それらの法や条例に違反するという要件を、本当に満たしていますか?」
「叩きゃ埃くらい出るよ」
「あのですね。今の世の中、そういうことしていると、警察も訴えられますよ」
谷津はまた舌打ちをした。
それから、阿岐本、日村、田代の順に睨みつけ、言った。
「ケチがついたな。出直すとするか」
谷津が山門のほうに去っていった。