だから平安時代は面白い

しかし、寛和2年(986)の花山天皇退位クーデターは、他でもないこの日本で、千年あまり前に起こった実話なのです。

『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

実は、すごく〝平安時代〟らしい事件だとも言えます。

これが200年前の奈良時代の皇位争いならどうでしょう。光仁天皇の皇后の井上内親王とその子の他戸親王は、天皇を呪詛した疑いで位を追われ、幽閉されて命を落としました。350年前の飛鳥時代なら、蘇我入鹿が皇極天皇の面前で斬殺され、天皇は退位しています。

王権を揺るがす事件は必ず暴力沙汰を伴っていたのです。

まあ、世界史的に見ても、国王や皇太子を廃するクーデターでは多くの血が流れるものです。国王が騙されてお坊さんになり、一滴も血が流れずに代替わりが起こるなんて、韓流や華流のファンタジードラマでも、「あまりにも緊張感のない話でリアリティーなさすぎ」と笑われかねません。

そんな「当たり前に血を見るはずのこと」が起こらなかったのだから、平安時代は面白いのです。