「平安版アベンジャーズ」のモデルに

そして頼光は父と同じく正四位下まで出世して、「朝家の守護」と呼ばれるまでになりました。つまり内裏警備の源氏の棟梁となったので、その部下たちも、「都の名物防衛隊」的に美化されていったようです。

これを「頼光の四天王」といい、渡辺綱・坂田金時・碓井貞光・卜部季武と伝わっています。

このうち渡辺綱は摂津渡辺、今の大阪の中之島にかかる渡辺橋周辺の武士団の伝説的な始祖、坂田金時は道長の花形随身(SP)で、若くして亡くなった優れた武人の下毛野公時(つまり金太郎の原型)のモデルにされるなど、実際の部下ではなく、有名な伝説的武人を頼光の下に集めたのが実情のようです。

しかし彼らが一丸となって戦った、いわば「平安版アベンジャーズ」というような物語が、鎌倉時代に創作され、その名は時代を超えて轟きました。かの「酒呑童子伝説」、大江山の鬼退治です。

『酒呑童子絵巻』(個人蔵)

こうした鬼退治の超人たちの原型イメージが、花山天皇を止めた源氏配下の武士たち、というわけなのです。止められた花山には、彼らがむしろ「鬼」に見えたかもしれませんが。


謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。