どうやら関西弁の場合、年齢、性別、職業、時代、さらに大阪内でも地区によって使う言葉はまちまちなのだという。
かつて私は兵庫の尼崎で奮闘する東京出身の女性検事を主人公にして小説を書いたことがある。さまざまな事件に遭遇し、取り調べをするときの会話を考えなければならないが、このときの言い回しが難しい。適当に書いておいてあとで大阪の女友達に監修してもらったのだが、滅多斬りに直された。
「ダメダメ。こんなん、若い女性はよう使わんて」
「京都の男性は使わない。これは祇園言葉」
そうか。私が京都言葉として耳慣れているのは、もしかしてはんなりした舞妓さんの言葉だったのかもしれない。
昔、テレビのトーク番組を観ていたら、三人の男性が司会を務め、ゲストに若い舞妓さんを招いてあれこれ質問していた。
「お稽古は、大変ですか?」
「そうどすなあ」
「着物、自分で着られるようになるまで何年もかかるんですか?」
「何年いうことはありませんけど……そうどすなあ」
「その格好で新幹線に?」
「そうどすなあ」
「いやあ、おきれいです」
「そうどすか?」
「将来の夢とか、ありますか?」
「そうどすなあ……」
なにを問われてもその舞妓さんはゆったりと、それこそはんなりと「そうどすなあ」以外の返答をなさらない。それが見事に味わい深く、私はすっかり魅了されてしまった。