ことに地方へ行って感動するのは敬語の使い方である。敬語には、独特のもてなし文化が見え隠れする。

「寒い中、よう来んさって」

「まあ、大きゅうならはったなあ」

子供相手にも丁寧な言葉で歓待する様子を見ていると、敬意すら覚える。

しかし関西の敬語には驚かされる。なにしろ泥棒やゴキブリにまで敬語を使うのだ。

「こないだ、泥棒さんが入らはってな」

「ゴキブリが出はったわ」

なんと丁寧なこと! この過度とも思われる敬語の使い方について大阪の友達に聞いたら、

「え? 別に敬語ってつもりないけど」

さらりと返された。いてはる、しはるは、敬語のうちに入らないらしい。

広島へ行った。駅からタクシーに乗り、運転手さんに広島弁で目的地を告げた。

広島は父の出身地である。私も幼い頃、市内に住む伯父伯母の家に一年間住んでいた経験がある。だから家族の中では父の次に広島弁が身についているとずっと言われてきた。

「どこから来んさったん?」

 私の言葉に反応し、運転手さんが問うてきたので、

「東京です。でも父が広島人なんで、ここいらは故郷みたいなもんじゃけえ」

「ほお、広島弁、上手やのう」

運転手さんに褒められた。私はすぐ図に乗って、さらに広島弁を披露した。するとまもなく運転手さん、豪快に笑いながら、

「今のは、六十点じゃのお」


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