たまに銭湯行けばいい

監督がお風呂に入らないのは島本和彦先生の「アオイホノオ」などでも
描写されているのでご存知の方も多いだろう。
というより昔からそのすじでは既に有名な話で、ひどいときには何ヶ月もお風呂に入らなかったらしい。

結婚式のときに来てくださった宮崎駿(みやざきはやお)監督がいかに庵野が風呂に入らないか、という話だけを延々とスピーチして花嫁の私は穴があったら入りたい気持ちで聞いていたのを今でもたまに思い出す。

肉や魚を食べないので体臭がほとんどしないのだが
あまりにも風呂に入らないでいるとさすがに
部屋が鶏小屋の臭いになっていた、と樋口真嗣(ひぐちしんじ)監督がNHKのドキュメントで話していたがその話は付き合い始めた当時関係各所から幾度となく聞いたものである。

私も付き合い始めたときまず監督の家のお風呂が壊れていて
使えなかったことに驚いた。
直さないのかと聞くと銭湯に行くからいいという答えだった。

『還暦不行届』(著:安野モヨコ/祥伝社)

一瞬ジムのシャワーとジャグジーを使うので自宅のお風呂は使わないという人たちのことを思い浮かべたが
そういう人たちはお湯溜めたり掃除したりが面倒だから
メンテナンスも料金に含まれているジムで入浴してるだけだ。

むしろお風呂好きで清潔感にも気を配ってるタイプが多く
監督の「家のお風呂は壊れたままでたまに銭湯行けばいい」っていうのとは
なんというか全く違う。

その頃監督が住んでいたマンションは
かなり古い「文化住宅」と呼ばれていたようなもので
配管自体が腐敗してどうこうなる状態を通り越していた。
住人もまばらで確か監督の住んでる部屋の隣も下も空き部屋だった。

お風呂場はタイル貼りの懐かしく可愛らしいものだったけど
いかんせん水が流れない。
少しでも流すと床に水が溜まったままになるので掃除もできない有様だった。

なので泊まりに行った時などは一緒に近くの銭湯に通っていた。
昔の漫画に出てくる大学生の同棲カップルみたい、というのも恥ずかしい。
年齢は28と40の立派な大人である。
最初の頃こそ物珍しさもあって楽しかったけれど毎回通うのは結構面倒ではあった。