逃げたい気持ちは僕も持っている
今の段階では僕が何かから逃げたがっている人物の一人を演じるってことしか知らされていないのですが、何かから逃げたいと考える人の気持ちはよくわかります。僕の場合、たまに原稿を依頼されることがあって、締め切りから逃げたいといつも思ってしまいます。
30代の後半から様々な場面でMCをさせていただいたり、朝の番組でパーソナリティを務めるようになったからか、ちゃんとした人だと思われがちなんですが、実は目の前にあることに向き合うのが得意なだけ。それが同時多発だったとしても目の前のことは大丈夫なんです。でも一週間後に処理するとかは無理。今じゃなくていいんだと解釈すると、なぜか脳内の処理済みファイルに入れてしまう癖があって(笑)。でも現実的には終わってないと。その狭間で現実逃避を企んでいるみたいな。結局のところ、締め切りが目の前に迫ると馬力が出るので何とかなっちゃうというのがまた問題で、次回も逃げたい場面を繰り返すことになるのです。
何をやっているのだろう? と思わなくもないのですが、誰だって苦しいことや辛い時間からは逃れたいと思うんですよ。それで言うと、役者デビューした頃は大変でした。「おまえなんてダメだ」と否定されたこともありましたし……。
舞台『蒲田行進曲』に出たのは23歳の時でしたが悪夢のような日々でした。演出家のつかこうへいさんは、基本的に役者が苦しみの中から開眼するように誘うのがスタンスだと言われている方で、僕もずいぶんと厳しい指導をいただいたのですが、ある日「おまえ、ぜんぜん折れないな」って言われて。そこからほめ殺しの嵐がはじまったんです。「上手だね~」「俺なんか何も言うことないね」って。そんなわけないことは自分が一番よくわかっているのでいたたまれなくて、もう最悪(笑)。それも含めて面白かったですけどね。つかさんの舞台に出演できたことは一生の宝になりました。