「自分はなんて無力なんだ、でもだからこそ、僕に何かできることはないかという思いが強く湧き上がってきました」(撮影:小林ばく)
〈発売中の『婦人公論』3月号から記事を先出し!〉
2021年に本屋大賞を受賞し、大きな話題を呼んだ『52ヘルツのクジラたち』がこの春、映画化される。作品で大きな役割を持つ役を好演した志尊淳さんに、映画にかけた思いを聞いた(構成=平林理恵 撮影=小林ばく)

生半可な気持ちではかかわれないと

――この映画のお話をいただいて、初めて原作本を手にとりました。出演する作品の原作には必ず目を通すようにしているものの、僕はあまり小説を読むのが得意ではなく、これまではいつもどこか「重い腰を上げる感」があったのです。

ところがこの小説は読み出したら止まらなくなり、最後まで一気に読んでしまいました。

読み終えて、いろんな意味でショックを受けました。トランスジェンダー、ヤングケアラー、虐待と、登場人物たちはそれぞれ孤独や苦しみを抱えています。でも、境遇の異なる僕にも、どこかにこんな思いはあるなあと感じました。

一方で、作中の登場人物たちと同じような思いを抱えている人は大勢いるのに、あまり目を向けずに生きてきた自分もいて。そんな僕が、ここに描かれた人たちの、必死でがむしゃらな、きれいごとではない日々に対して、俳優として向き合うことになる。

自分はなんて無力なんだ、でもだからこそ、僕に何かできることはないかという思いが強く湧き上がってきました。