「安吾役は、考えても考えてもわからないところがたくさんありました。それらをすべて現場で受け止めてくれたのが、若林佑真くんです」

知ろうとすることが出発点になる

――撮影が始まってからは、とにかく全力で岡田安吾になろう、安吾を通して伝えられることを伝えていこうという気持ちでした。それまでの僕は、役を作り上げるのは役者である僕一人だ、と考えていたように思います。演じる自分がすべて。だから自分一人の力でやらないといけない、と。

ところが安吾役は、考えても考えてもわからないところがたくさんありました。それらをすべて現場で受け止めてくれたのが、若林佑真くんです。佑真くんはこの作品に出演するトランスジェンダー当事者の俳優で、脚本段階から本作のトランスジェンダーをめぐる表現の監修をしてくださいました。

その佑真くんが全シーン、全セリフ、一緒に向き合って考えてくれて、二人三脚で岡田安吾を作り上げていったのです。

たとえば、杉咲さん演じる貴瑚を絶望から救い出したいと思った安吾が、「人生を変えてみないか」「自分で望めば呪いから抜け出せるんだよ」と、貴瑚に語りかけるセリフがあります。僕はこれを、苦しみを乗り越えてきた安吾の実体験から出てくる言葉として捉えて演じたんです。

そしたら佑真くんが、「まだ安吾自身も抜け出せずにもがいていて、貴瑚を通して自分にも言い聞かせているんじゃないか」と。そうなると、言い方や細かい表情は当然変わる。指摘を受けてハッと気づかされるたびに、より深く安吾の心に入っていけたように思います。