ひ孫と遊ぶ

それから三年後。

2010年3月17日、仁子は、百福の後を追うように安らかに眠りにつきました。九十二歳。老衰でした。

明美(長女)はこんな風に回想します。

「母が泣いているところを見たことがありません。いま思えば、母には想像を絶するようなつらい思い出がいっぱいあったはずなのに、暗さや湿っぽさがまったくなかったのはなぜでしょうね。きっと、天性の明るさと、観音様のような広い心で何ごとも受け入れたのだと思います」

百福が亡くなった後、仁子の寂しさをいやしてくれたのはやはり家族でした。仁子の日記には、

「ひ孫が門から大きい声で『バァーバァー』と叫んでくれてどんなにかうれしい。有難う。いっしょに遊び元気な一日がすむ。南無観世音大菩薩様」

最後に、こんな一句が添えられていました。

孫うれしひ孫うれしと親かすむ 仁子

※本稿は、『チキンラーメンの女房 実録 安藤仁子』(安藤百福発明記念館編、中央公論新社刊)の一部を再編集したものです。


チキンラーメンの女房 実録 安藤仁子』(著:安藤百福発明記念館/中央公論新社)

NHK連続テレビ小説『まんぷく』のヒロイン・福子のモデルとなった、日清食品創業者・安藤百福の妻であり、現日清食品ホールディングスCEO・安藤宏基の母、安藤仁子とは、どういう人物だったのか?

幾度もどん底を経験しながら、夫とともに「敗者復活」し、明るく前向きに生きた彼女のその人生に、さまざまな悩みに向き合う人たちへの答えやヒントがある――寒空のなかの1杯のラーメンのように、元気が沸き、温かい気持ちになる1冊。