新しい単語に出会うたびに

家の窓から外を走っていく車が見えた。そのときに、「ブーブ」と話しかけられた。

ブーブというのは、窓から見えた、あんなふうに走り去っていく車のこと?

散歩の途中で、毛むくじゃらの、四本足で歩く生き物に出会った。

お父さんは「ワンワン」と言っていたけれど、こういう感じの、毛むくじゃらで、四本足の生き物は皆「ワンワン」なんだろうか?

このように、新しい単語に出会うたびに子どもは、それがどのような意味なのかについて試行錯誤を繰り返しているのだとすれば、確かに、たくさんの単語を素早く覚えていくことなどできないはずです。

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*1 『ことばと対象』(W・V・O・クワイン著、大出晁・宮館恵訳、勁草書房、1984)(W.V. O. Quine 1960 Word and object. Massachusetts: M. I. T. Press.)

※本稿は、『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』 (著:針生悦子/中公新書ラクレ) 

東京大学で認知科学や発達心理学の研究に従事する著者は、赤ちゃんの「驚き反応」に着目するなどして、人がことばを学ぶプロセスについて明らかにしてきました。子どもはラクラクとことばを覚える「天才」? 赤ちゃんは耳にした「音」をどうやって「ことば」として認識する? 生まれた時から外国語に触れていたら、誰でもバイリンガルになれる? 本書を読めば、赤ちゃんの無垢な笑顔に隠れた努力に驚かされること間違いなし!