2023年初夏、家族で食事とお酒を楽しんで。右は夫の善行さん(写真提供◎カンナさん、はづきさん)

 

カンナ 母は85歳の時、股関節を骨折して、家の中でも車椅子に。それ以来、料理も父が受け持つようになって──。

はづき でもたまに母から電話がかかってきて、父が作る料理を「まッずいの」とこぼす。だから「し~っ、お父さんに言っちゃダメよ」(笑)。父が作ったものより私たちが作ったもののほうがおいしかったりすると、二人の関係の邪魔になる気がしていたから、たまに常備菜を届けるくらいにしていた。

ヘンな言い方だけど、母の脚が折れたのは、最後に夫婦の蜜月の時間を持つためだったんじゃないかな。

カンナ だからあえて、あまり両親の家には行かないようにしていたのよね。

はづき 母が元気な頃は、私たちに「母中心にしなさい」といつも言ってた父が、初めて家庭内の主役になれた。父はそれが幸せだったんだと思う。

カンナ それにしても、母は丈夫だったわよね。お産と骨折の時以外、入院したことがない。私は2022年の暮れに食道がんで手術をして以来、お酒もやめて。母は忘れっぽくなっていたので、たまに一緒に食事をすると、必ず「あらカンナ、お酒やめたの?」と聞いてくる。もう、何十回聞かれたことか。

それで「手術したから」と答えると、そのたびに「かわいそう」と泣くのよ。母が亡くなって、「あぁ、もう母を泣かさないですむ」と思いました。